お昼前から降りだした雨が一向に止む気配を見せない。早い
昼食をとり五色台の野生児たちに逢いに行く準備を整えていた
のだが、雨足は弱まるどころか、時間と共に激しさを増してく
る。二時、三時、容赦なく刻が流れ苛立ちがつのる。
午後四時、これ以上雨が上がるのを待てないぎりぎりの時間
であった。山の夕暮れは早く、暗い。窪地の仔犬たちのことも
気がかりである。
四時四十分、コロたちのいる岬に到着。激しかった雨が霧雨
に変わっていた。一台の車も停まっていない岬の駐車場は、雨
に叩かれて落ちてきたのであろう木の葉が散乱していた。
車から降りてトランクを開ける。コロもクロも出てこない。
昨日からコロとクロのために用意していた、スープと肉と野菜
がたっぷり入った大きなケースを取り出す。
斜面をコロが駆け下りてきていた。足下にじゃれつき、手を
くわえ、果ては濡れた歩道に横になって甘える。
食器に肉と野菜そしてご飯とコロの大好きなスープを二食分
盛りつける。見事な食欲を見せてくれる。ぺちゃんこだったコ
ロのお腹が横に張り出してくる。
いつの間にかクロも直ぐ横にきておとなしくお座りをしてい
た。クロにも食餌を用意する。いつものクロと違い元気がない。
何とか側に寄って様子を見ようとしても、もう少しのところで
交わされてしまう。歩道の縁石に座り様子をうかがう。
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右目に目脂がつき、右の鼻孔にも乾燥した鼻汁が付着してい
る。右後肢がときどき微かに震え、全体に元気がない。食欲も
殆どないようであった。熱があるような雰囲気である。
コロの病気が伝染したのであろう。捕まえられないクロを治
療することができない。何とか食餌の中に薬を混入して食べさ
せる方法を考えることにする。点滴ができればそれだけ早く治
せるのだが・・・・・明日からまた闘いが始まる。
食餌の終わったコロを診察しようと聴診器を出す。首に掛け
た聴診器を見た途端、十メートルほど全力疾走で逃げる。トコ
トコと追いかけていき、何とか捕まえられる距離にくると、ま
た一目散に逃げてくれる。
余程点滴が痛かったのだろう。走り方から見る限り、健康そ
のものであった。聴診器を車の中にしまうと、平気な顔でじゃ
れついてくる。げんきんなものである。
窪地の脇の斜面に置いていた仔犬たちの食餌はきれいに空っ
ぽになっていた。木が生い茂っているため地面も濡れていない。
ドライフードを肉汁で柔らかくした食餌と、パンを周辺に置く。
窪地に置いていた非常食もきれいになくなっている。茶と名無
しの気配はなかった。仔犬の姿も見えない・・・・・
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