コロちゃん完治



10月17日 日曜 雨
 お昼前から降りだした雨が一向に止む気配を見せない。早い
昼食をとり五色台の野生児たちに逢いに行く準備を整えていた
のだが、雨足は弱まるどころか、時間と共に激しさを増してく
る。二時、三時、容赦なく刻が流れ苛立ちがつのる。

 午後四時、これ以上雨が上がるのを待てないぎりぎりの時間
であった。山の夕暮れは早く、暗い。窪地の仔犬たちのことも
気がかりである。

 四時四十分、コロたちのいる岬に到着。激しかった雨が霧雨
に変わっていた。一台の車も停まっていない岬の駐車場は、雨
に叩かれて落ちてきたのであろう木の葉が散乱していた。

 車から降りてトランクを開ける。コロもクロも出てこない。
昨日からコロとクロのために用意していた、スープと肉と野菜
がたっぷり入った大きなケースを取り出す。

 斜面をコロが駆け下りてきていた。足下にじゃれつき、手を
くわえ、果ては濡れた歩道に横になって甘える。

 食器に肉と野菜そしてご飯とコロの大好きなスープを二食分
盛りつける。見事な食欲を見せてくれる。ぺちゃんこだったコ
ロのお腹が横に張り出してくる。

 いつの間にかクロも直ぐ横にきておとなしくお座りをしてい
た。クロにも食餌を用意する。いつものクロと違い元気がない。
何とか側に寄って様子を見ようとしても、もう少しのところで
交わされてしまう。歩道の縁石に座り様子をうかがう。
 右目に目脂がつき、右の鼻孔にも乾燥した鼻汁が付着してい
る。右後肢がときどき微かに震え、全体に元気がない。食欲も
殆どないようであった。熱があるような雰囲気である。

 コロの病気が伝染したのであろう。捕まえられないクロを治
療することができない。何とか食餌の中に薬を混入して食べさ
せる方法を考えることにする。点滴ができればそれだけ早く治
せるのだが・・・・・明日からまた闘いが始まる。

 食餌の終わったコロを診察しようと聴診器を出す。首に掛け
た聴診器を見た途端、十メートルほど全力疾走で逃げる。トコ
トコと追いかけていき、何とか捕まえられる距離にくると、ま
た一目散に逃げてくれる。

 余程点滴が痛かったのだろう。走り方から見る限り、健康そ
のものであった。聴診器を車の中にしまうと、平気な顔でじゃ
れついてくる。げんきんなものである。

 窪地の脇の斜面に置いていた仔犬たちの食餌はきれいに空っ
ぽになっていた。木が生い茂っているため地面も濡れていない。
ドライフードを肉汁で柔らかくした食餌と、パンを周辺に置く。
窪地に置いていた非常食もきれいになくなっている。茶と名無
しの気配はなかった。仔犬の姿も見えない・・・・・