色のない雨



5月18日
 夜来の雨が上がることもなく、五月にしては冷たい朝を迎え
た。ビーチパラソルの下の犬舎でうとうとと眠っている大五郎
とちび、目を覚ましたちびが大五郎の毛づくろいをするかのよ
うに背中から後ろ脚にかけてしきりになめている。

 ひとしきり大五郎の毛づくろいをしたあと、大五郎の太股の
辺りを枕にまたうとうとと眠り始める。

 五色台の自然の中で両親と共に四ヶ月余りを過ごした後、二
階堂家の次男として迎え入れられた大五郎。

 春まだ浅い日、崖下の小径に段ボール箱に入れられた仔犬五
頭と共に捨てられていたちび・・・親を亡くした大五郎と、子
を失い飼い主からも見捨てられたちび・・・真新しい犬舎の中
で何を夢見ながらまどろんでいるのであろうか。

 大自然の中を母親の胡桃、父親の太郎そして兄弟たちやおじ
さんの権兵衛たちとはしゃぎながら遊んだ日のことを・・・。

 北風がびゅうびゅうと吹く寒い朝、身体を寄せあって暖をとっ
た木の下の住居の懐かしい匂いを想い出しながらまどろんでい
るのだろう・・・。
 小刻みに動く白い小さな足袋を履いたような大五郎の前脚も
すっかり逞しくなってきている。体格は既にちびを上回ってい
る。まだ甘えたい齢なのであろう。

 狭い庭の中で大五郎の尻尾を、耳を咬んでは引きずり回して
遊んでいるちび・・・。遊びながら大五郎に母親として何かを
教えているのであろうか!

 先輩のももや玲を押し退けてでも私にまとわりつき、ちょっ
とでも隙を見せるとお得意のジャンピング・キスの嵐。

 どうしようもないほどの甘えん坊のちびが見せる母性愛・・
母のない子と、子のない母と・・・

 今朝のしのつく雨には色がなかった、音もなかった・・・・
僅かに実った杏の実がまどろむ二頭を雨と共に見守っていた。