夜来の雨が上がることもなく、五月にしては冷たい朝を迎え
た。ビーチパラソルの下の犬舎でうとうとと眠っている大五郎
とちび、目を覚ましたちびが大五郎の毛づくろいをするかのよ
うに背中から後ろ脚にかけてしきりになめている。
ひとしきり大五郎の毛づくろいをしたあと、大五郎の太股の
辺りを枕にまたうとうとと眠り始める。
五色台の自然の中で両親と共に四ヶ月余りを過ごした後、二
階堂家の次男として迎え入れられた大五郎。
春まだ浅い日、崖下の小径に段ボール箱に入れられた仔犬五
頭と共に捨てられていたちび・・・親を亡くした大五郎と、子
を失い飼い主からも見捨てられたちび・・・真新しい犬舎の中
で何を夢見ながらまどろんでいるのであろうか。
大自然の中を母親の胡桃、父親の太郎そして兄弟たちやおじ
さんの権兵衛たちとはしゃぎながら遊んだ日のことを・・・。
北風がびゅうびゅうと吹く寒い朝、身体を寄せあって暖をとっ
た木の下の住居の懐かしい匂いを想い出しながらまどろんでい
るのだろう・・・。
|
小刻みに動く白い小さな足袋を履いたような大五郎の前脚も
すっかり逞しくなってきている。体格は既にちびを上回ってい
る。まだ甘えたい齢なのであろう。
狭い庭の中で大五郎の尻尾を、耳を咬んでは引きずり回して
遊んでいるちび・・・。遊びながら大五郎に母親として何かを
教えているのであろうか!
先輩のももや玲を押し退けてでも私にまとわりつき、ちょっ
とでも隙を見せるとお得意のジャンピング・キスの嵐。
どうしようもないほどの甘えん坊のちびが見せる母性愛・・
母のない子と、子のない母と・・・
今朝のしのつく雨には色がなかった、音もなかった・・・・
僅かに実った杏の実がまどろむ二頭を雨と共に見守っていた。
|