午後十時、夕方の約束を果たすべく、温めた牛乳を魔法瓶に、
予備の牛乳はパックのまま、毛布とドライフード、途中ローソ
ンに寄りチーズとビーフカツなどを購入、星の全く出ていない
県道を一路五色台へ。
十時半現場到着、水銀灯二基が周囲をこうこうと照らしてい
るので、用意していた携帯用の蛍光灯は無用の長物となる。
崖下を覗いてみる。誰かが敷いてくれたのだろう、麦わらの上
に母犬が丸くなって寝ていた。
口笛を吹くと、むっくりと頭をあげ尻尾を振る。ビーフカツ
とチーズを食器に移していると、母犬が崖下の手の届くところ
まで上ってきてじっとこちらを見ている。勿論下からのアング
ルのため気配しか解らないのだろう。それでもじっと上を見つ
めてしっかりと尻尾を振っていた。チーズとカツを手で与える
と、むさぼるように呑み込む。
魔法瓶を肩に、食器二つと食糧を入れた袋を両手に持ってお
っかなびっくり坂を下りる。仔犬たちは段ボール箱の中で眠っ
ていた。
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用意した冷たい牛乳と温かい牛乳を混ぜて人肌くらいの温度
にして容器に移す。仔犬たちが一斉に群がってきた。美味しそ
うに飲んでくれる。もう一つの容器にドライフードを三キロほ
ど入れ、仔犬の入っていなかったもう片方の段ボール箱に入れ
る。これで雨が降っても大丈夫のはずである。
不意に母犬がけたたましい吠え声をあげた。崖の上にコロと
クロそして茶の姿があった。口笛を吹くとコロが転がるように
坂を下りてきて、母犬を押し退けるようにしてお腹を見せて甘
える。
母犬もそれ以上は吠えない どうやら折り合いはついたよう
だ。崖を上がりクロたちにも夜食を振る舞う。みんなどういう
わけか美味しそうに食べてくれた。
仔犬たちはミルクでお腹をパンパンに膨らませて段ボール箱
に入って行った。雄が二頭に雌が三頭であった。このままクロ
やコロ、母犬たちと一緒に過ごしたいという衝動を抑え帰路に
つく。
風も全くなく、気温二度という割には寒さを感じない一刻で
あった。明日から里親探しを始めよう。
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