五色台異聞 二



3月4日
 午後十時、夕方の約束を果たすべく、温めた牛乳を魔法瓶に、
予備の牛乳はパックのまま、毛布とドライフード、途中ローソ
ンに寄りチーズとビーフカツなどを購入、星の全く出ていない
県道を一路五色台へ。

 十時半現場到着、水銀灯二基が周囲をこうこうと照らしてい
るので、用意していた携帯用の蛍光灯は無用の長物となる。
崖下を覗いてみる。誰かが敷いてくれたのだろう、麦わらの上
に母犬が丸くなって寝ていた。

 口笛を吹くと、むっくりと頭をあげ尻尾を振る。ビーフカツ
とチーズを食器に移していると、母犬が崖下の手の届くところ
まで上ってきてじっとこちらを見ている。勿論下からのアング
ルのため気配しか解らないのだろう。それでもじっと上を見つ
めてしっかりと尻尾を振っていた。チーズとカツを手で与える
と、むさぼるように呑み込む。

 魔法瓶を肩に、食器二つと食糧を入れた袋を両手に持ってお
っかなびっくり坂を下りる。仔犬たちは段ボール箱の中で眠っ
ていた。


 用意した冷たい牛乳と温かい牛乳を混ぜて人肌くらいの温度
にして容器に移す。仔犬たちが一斉に群がってきた。美味しそ
うに飲んでくれる。もう一つの容器にドライフードを三キロほ
ど入れ、仔犬の入っていなかったもう片方の段ボール箱に入れ
る。これで雨が降っても大丈夫のはずである。

 不意に母犬がけたたましい吠え声をあげた。崖の上にコロと
クロそして茶の姿があった。口笛を吹くとコロが転がるように
坂を下りてきて、母犬を押し退けるようにしてお腹を見せて甘
える。

 母犬もそれ以上は吠えない どうやら折り合いはついたよう
だ。崖を上がりクロたちにも夜食を振る舞う。みんなどういう
わけか美味しそうに食べてくれた。

 仔犬たちはミルクでお腹をパンパンに膨らませて段ボール箱
に入って行った。雄が二頭に雌が三頭であった。このままクロ
やコロ、母犬たちと一緒に過ごしたいという衝動を抑え帰路に
つく。

 風も全くなく、気温二度という割には寒さを感じない一刻で
あった。明日から里親探しを始めよう。