どんよりと鉛色に曇っている空が今にも泣き出しそうな気配
を見せていた午後三時半、総勢わずか四名が胡桃たちの住居が
ある駐車場脇に集まった。
太郎と権兵衛は不在のようである。用意した「いりこ」を仔
犬たちに手で食べさせながら、じっと捕獲のチャンスを窺う。
用意していた捕獲網はもう一つ使えそうになかった。
大五郎を先頭に手の届くところまでみんな集まってはくるも
のの、どうも踏ん切りがつかない。そうこうしている内に時間
だけがどんどんと過ぎて行き、少々焦り始める。
「いりこ」を美味しそうに食べている四頭の内二頭が先ず捕
まった。野生犬の特徴であろう、一旦捕まるとおとなしすぎる
くらいおとなしくなる。ゲージに入れられても全く暴れること
をしない。
しかしこれからが問題であった。一番慣れている大五郎が、
私をも警戒し始めたのである。住居の奥深く潜り込んで出てこ
ようとはしない。手から食べていた「いりこ」も、飛びつくよ
うにして食べては後退、食べては後退の繰り返しである。
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用意していた簡易椅子に座って三十分、名案も浮かばないし、
有料道路のゲートの閉まる時間も迫っていた。
残された方法は一つ。住居の下を掘り下げて潜り込むしかな
い。正面の入り口を棒でつついて貰い奥の裏口へ仔犬たちを追
いつめて行く。上半身を住居の中にくぐり込ませて一頭ずつ引
っ張り出すことに成功。頭と言わず泥だらけの有り様ながら、
手を噛まれることもなく、また仔犬たちに怪我を負わすことも
なく、無事保護することができた。
どうしても大五郎だけは自宅に連れて帰りたかったものの、
やはり今夜は兄弟揃って過ごした方が・・・・・と思い、動物
愛護団体に預ける。
いつも食べている犬缶と一緒にトラックに積み込まれた大五
郎たちは暗闇の中、住み慣れた五色台を後にしたのである。気
温十四度、風はなかった。
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