野生児保護作戦成功



3月26日
 どんよりと鉛色に曇っている空が今にも泣き出しそうな気配 
を見せていた午後三時半、総勢わずか四名が胡桃たちの住居が
ある駐車場脇に集まった。

 太郎と権兵衛は不在のようである。用意した「いりこ」を仔
犬たちに手で食べさせながら、じっと捕獲のチャンスを窺う。
用意していた捕獲網はもう一つ使えそうになかった。

 大五郎を先頭に手の届くところまでみんな集まってはくるも
のの、どうも踏ん切りがつかない。そうこうしている内に時間
だけがどんどんと過ぎて行き、少々焦り始める。

 「いりこ」を美味しそうに食べている四頭の内二頭が先ず捕
まった。野生犬の特徴であろう、一旦捕まるとおとなしすぎる
くらいおとなしくなる。ゲージに入れられても全く暴れること
をしない。

 しかしこれからが問題であった。一番慣れている大五郎が、
私をも警戒し始めたのである。住居の奥深く潜り込んで出てこ
ようとはしない。手から食べていた「いりこ」も、飛びつくよ
うにして食べては後退、食べては後退の繰り返しである。
 用意していた簡易椅子に座って三十分、名案も浮かばないし、
有料道路のゲートの閉まる時間も迫っていた。

 残された方法は一つ。住居の下を掘り下げて潜り込むしかな
い。正面の入り口を棒でつついて貰い奥の裏口へ仔犬たちを追
いつめて行く。上半身を住居の中にくぐり込ませて一頭ずつ引
っ張り出すことに成功。頭と言わず泥だらけの有り様ながら、
手を噛まれることもなく、また仔犬たちに怪我を負わすことも
なく、無事保護することができた。

 どうしても大五郎だけは自宅に連れて帰りたかったものの、
やはり今夜は兄弟揃って過ごした方が・・・・・と思い、動物
愛護団体に預ける。

 いつも食べている犬缶と一緒にトラックに積み込まれた大五
郎たちは暗闇の中、住み慣れた五色台を後にしたのである。気
温十四度、風はなかった。