住み慣れた五色台を後に暗闇の中をトラックで運ばれて行っ
た大五郎たち四頭の五色台の野生児たち、一夜明けた土曜日、
用意されていた五坪ほどの犬舎の隅で食餌もせず、じっとかた
まっていた。
「大五郎」と呼びかけながら犬舎に入っていくと、小さな短
い尻尾を振りながらじっとこちらを見つめる。二月九日に、私
のガウンの中で一夜を過ごして以来、無理矢理抱き上げること
をしなかったのだが、つぶらな瞳でじっと私を見つめているい
じらしさに、腕を延ばし胸の中に抱き上げる。
ふんわりとした温かさが伝わってくる。鼻をぺろぺろとなめ
にくる。随分重くなっていた。下に降ろしても、もう逃げよう
とはしない。手を出すと、ちゃんと右前脚を出してお手をする。
もう一度手を出すと左前脚を預けてくる。
「ハダニ」もちゃんと捕って貰っていた。お腹を出してじっ
とされるがままになっている。一時間ほど、大五郎たちの今後
のことを話し合い、再び犬舎に入って行く。
大五郎を先頭に他の仔犬たちもクンクンと甘えた声を出しな
がら側に寄ってきて手をなめ始める。他の仔犬を抱き上げよう
とすると大五郎が牽制にくる。仔犬たちの先頭に立って私の前
にきてちゃんとお座りの姿勢をとる。やっと新しい環境を理解
してくれたようである。食餌も少しはしてくれていた。
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「『大五郎』君は、やっぱり二階堂さんのところにおちつく
ようですねぇ」
「そうしたい気持ちで一杯です。でも家に連れて帰ると、七
分の一の幸福、いい里親さんのところで末っ子として愛情
を注いで貰うことと比べると、迷います・・・」
「いい子ですからねぇ」
「そうですね、大五郎が一番早く貰われて行くでしょう・・」
新しい環境で、しっかりと自分たちの幸福を探し始めた大五
郎たちに、いつもと同じように「またくる」と言い残し、後ろ
髪を惹かれながら犬舎を後にする。
大五郎たち五色台の野生児四頭の安全は確保された。母犬の
胡桃が揃っていれば百パーセントの成果であろうが・・・・・
山に帰した二月十日「これからは、こんな汚れた人間の世界
に目を向けず、自分の力で親兄弟を守れるリーダーになれよ!」
と語りかけた言葉通り、大五郎は仔犬たちのリーダーとなって
小さな一歩を既に記していたのである。
五色台に残された太郎・権兵衛・クロ・コロ・茶たち成犬も、
時間はかかるであろうが、何れ大五郎たちと同じように新しい
環境の中で愛情一杯に育てられる日が必ずくることを次の目標
として、また一歩一歩、牛の歩にも似た私の新しい五色台の野
生児たちとの付き合いが始まるのであろう・・・・・。
今夜は野生児たちと共に、明日の夢を見よう・・・
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