大五郎はやはりリーダー!



3月28日
 住み慣れた五色台を後に暗闇の中をトラックで運ばれて行っ
た大五郎たち四頭の五色台の野生児たち、一夜明けた土曜日、
用意されていた五坪ほどの犬舎の隅で食餌もせず、じっとかた
まっていた。

 「大五郎」と呼びかけながら犬舎に入っていくと、小さな短
い尻尾を振りながらじっとこちらを見つめる。二月九日に、私
のガウンの中で一夜を過ごして以来、無理矢理抱き上げること
をしなかったのだが、つぶらな瞳でじっと私を見つめているい
じらしさに、腕を延ばし胸の中に抱き上げる。

 ふんわりとした温かさが伝わってくる。鼻をぺろぺろとなめ
にくる。随分重くなっていた。下に降ろしても、もう逃げよう
とはしない。手を出すと、ちゃんと右前脚を出してお手をする。
もう一度手を出すと左前脚を預けてくる。

 「ハダニ」もちゃんと捕って貰っていた。お腹を出してじっ
とされるがままになっている。一時間ほど、大五郎たちの今後
のことを話し合い、再び犬舎に入って行く。

 大五郎を先頭に他の仔犬たちもクンクンと甘えた声を出しな
がら側に寄ってきて手をなめ始める。他の仔犬を抱き上げよう
とすると大五郎が牽制にくる。仔犬たちの先頭に立って私の前
にきてちゃんとお座りの姿勢をとる。やっと新しい環境を理解
してくれたようである。食餌も少しはしてくれていた。
 「『大五郎』君は、やっぱり二階堂さんのところにおちつく
  ようですねぇ」

 「そうしたい気持ちで一杯です。でも家に連れて帰ると、七
  分の一の幸福、いい里親さんのところで末っ子として愛情
  を注いで貰うことと比べると、迷います・・・」

 「いい子ですからねぇ」

 「そうですね、大五郎が一番早く貰われて行くでしょう・・」

 新しい環境で、しっかりと自分たちの幸福を探し始めた大五
郎たちに、いつもと同じように「またくる」と言い残し、後ろ
髪を惹かれながら犬舎を後にする。

 大五郎たち五色台の野生児四頭の安全は確保された。母犬の
胡桃が揃っていれば百パーセントの成果であろうが・・・・・

 山に帰した二月十日「これからは、こんな汚れた人間の世界
に目を向けず、自分の力で親兄弟を守れるリーダーになれよ!」
と語りかけた言葉通り、大五郎は仔犬たちのリーダーとなって
小さな一歩を既に記していたのである。

 五色台に残された太郎・権兵衛・クロ・コロ・茶たち成犬も、
時間はかかるであろうが、何れ大五郎たちと同じように新しい
環境の中で愛情一杯に育てられる日が必ずくることを次の目標
として、また一歩一歩、牛の歩にも似た私の新しい五色台の野
生児たちとの付き合いが始まるのであろう・・・・・。

 今夜は野生児たちと共に、明日の夢を見よう・・・