野生児保護作戦



3月24日
 五色台の野生児胡桃の消息は十六日の給餌以来ぷっつりと消 
えたままである。十九日に不在を発見して以来連日、正午過ぎ、
午後遅く、夕方、そして深夜と時間を変えて探してみたものの、
その消息を掴むべき手がかりさえも得ることはできなかった。

 太郎と胡桃の両親が揃っていればこその野生児たちの生活で
あり、その意義も存在していたのだろうが、三ヶ月齢の仔犬た
ち四頭と父親だけの生活はあまりにも惨めであり、採餌一つ考
えても到底無理なことであろう。私の給餌回数を連日に増やし
て仔犬たちの様子を観ていても、じっと住居を守り、母親の帰
りを待っている大五郎たち仔犬の姿は哀れを誘う以外の何物で
もないように思えた。

 地元の動物愛護団体の人たちとの野生犬の観察及び保護につ
いての現地勉強会を急遽「野生児保護作戦」に切り替え、五人
の仲間たちが何と二時間余り仔犬たちの捕獲を試みる。

 母親の躾が行き届いているのだろうか、とにかく捕まえるこ
とができない。仔犬たちに懸命に説得を試みる人、じっと天を
仰いで考え込む人、新たな捕獲作戦を考える人等々・・・

 午後六時前、今回の作戦をあきらめ、二十六日の金曜日に、
人数ももっと増やして、もう一度仔犬たちの捕獲を試みること
になった。勿論それまでに保健所などの危険要素が五色台の野
生児たちの上に降り懸かるようなことがないよう、自然科学館
の館長に依頼、山上での第一回野生児保護作戦は失敗のまま次
回に持ち越されることになった。

 帰路、クロ・コロ・茶たちの給餌を兼ねて、野生犬の生態を
観察しながら動物愛護団体の人たちに、初歩的な犬の生態につ
いてのレクチュァー、山裾に棲んでいるクロたちも、受け入れ
設備の整備を急ぎ、可及的速やかに保護することを申し合わせ
て散会ということになる。
 車を連ねての帰途、またもや、野良君たちの集団に遭遇、給
餌をしながら仔犬一頭を保護しかかったものの、仔犬の脚を不
用意に捕まえた動物愛護団体の代表の女性が噛まれて軽傷を負
う。

 この仔犬の保護も次回ということになり、今度は本当に散会
と思った矢先、私の目の中にびっこをひいた猫が一頭・・・・

 「猫の苦手な二階堂さん」おっかなびっくりその猫に近づい
て行ったところ、難なく保護することができる。主治医に電話
を入れ、閉院を少しのばして貰い、愛犬病院へ。左足先が完全
に事故によって消失していたものの、爪を切って貰い、化膿止
めの注射を射って治療は終了。

 猫は軽傷を負った動物愛護団体の女性が引き取って行った。
動物愛護団体はまだ新しく結成されたばかりであり、その活動・
運営方針を決めるのも、犬や猫たちについて生態・社会環境な
どについての勉強もこれからではあるが、現在の「犬や猫は自
分たちと同じ命を持つもの」であり、これからの活動は犬や猫
を中心に考えて行いたいという気持ちを失わず活動を続けて欲
しいと願う。

 団体に所属することは二度としないつもりではあるが動物愛
護団体に協力できることがあればその労を惜しむつもりはない
し可能な限りその活動を援助して行くつもりである。そうする
ことが五色台の野生児たちの幸福にもつながるような気もする
のである。