五色台の野生児胡桃の消息は十六日の給餌以来ぷっつりと消
えたままである。十九日に不在を発見して以来連日、正午過ぎ、
午後遅く、夕方、そして深夜と時間を変えて探してみたものの、
その消息を掴むべき手がかりさえも得ることはできなかった。
太郎と胡桃の両親が揃っていればこその野生児たちの生活で
あり、その意義も存在していたのだろうが、三ヶ月齢の仔犬た
ち四頭と父親だけの生活はあまりにも惨めであり、採餌一つ考
えても到底無理なことであろう。私の給餌回数を連日に増やし
て仔犬たちの様子を観ていても、じっと住居を守り、母親の帰
りを待っている大五郎たち仔犬の姿は哀れを誘う以外の何物で
もないように思えた。
地元の動物愛護団体の人たちとの野生犬の観察及び保護につ
いての現地勉強会を急遽「野生児保護作戦」に切り替え、五人
の仲間たちが何と二時間余り仔犬たちの捕獲を試みる。
母親の躾が行き届いているのだろうか、とにかく捕まえるこ
とができない。仔犬たちに懸命に説得を試みる人、じっと天を
仰いで考え込む人、新たな捕獲作戦を考える人等々・・・
午後六時前、今回の作戦をあきらめ、二十六日の金曜日に、
人数ももっと増やして、もう一度仔犬たちの捕獲を試みること
になった。勿論それまでに保健所などの危険要素が五色台の野
生児たちの上に降り懸かるようなことがないよう、自然科学館
の館長に依頼、山上での第一回野生児保護作戦は失敗のまま次
回に持ち越されることになった。
帰路、クロ・コロ・茶たちの給餌を兼ねて、野生犬の生態を
観察しながら動物愛護団体の人たちに、初歩的な犬の生態につ
いてのレクチュァー、山裾に棲んでいるクロたちも、受け入れ
設備の整備を急ぎ、可及的速やかに保護することを申し合わせ
て散会ということになる。
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車を連ねての帰途、またもや、野良君たちの集団に遭遇、給
餌をしながら仔犬一頭を保護しかかったものの、仔犬の脚を不
用意に捕まえた動物愛護団体の代表の女性が噛まれて軽傷を負
う。
この仔犬の保護も次回ということになり、今度は本当に散会
と思った矢先、私の目の中にびっこをひいた猫が一頭・・・・
「猫の苦手な二階堂さん」おっかなびっくりその猫に近づい
て行ったところ、難なく保護することができる。主治医に電話
を入れ、閉院を少しのばして貰い、愛犬病院へ。左足先が完全
に事故によって消失していたものの、爪を切って貰い、化膿止
めの注射を射って治療は終了。
猫は軽傷を負った動物愛護団体の女性が引き取って行った。
動物愛護団体はまだ新しく結成されたばかりであり、その活動・
運営方針を決めるのも、犬や猫たちについて生態・社会環境な
どについての勉強もこれからではあるが、現在の「犬や猫は自
分たちと同じ命を持つもの」であり、これからの活動は犬や猫
を中心に考えて行いたいという気持ちを失わず活動を続けて欲
しいと願う。
団体に所属することは二度としないつもりではあるが動物愛
護団体に協力できることがあればその労を惜しむつもりはない
し可能な限りその活動を援助して行くつもりである。そうする
ことが五色台の野生児たちの幸福にもつながるような気もする
のである。
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