風もない穏やかな空の下で五頭の犬たちが身体を伸ばして休
んでいた。大晦日の夕方、年越しのために置いた食餌は見事に
空になっていた。
ビーグルとシェルテイとシェパードを掛け合わせたような男
の子、左耳がきれいに折れ、右耳はちゃんと立っているオフホ
ワイトのひ弱そうな男の子も随分元気になっている。
蘭ちゃんと同じように右後肢が折れてびっこをひきながら擦
りよってくる女の子は、相変わらず元気いっぱいのようである。
真っ黒い毛に全身を覆われている母親らしい犬、少し用心深く
よく栄養が行き渡っている仲間の雌犬君も、今日は少しだけゆっ
たりとした足どりである。
貯木場の仲間たちに会ってから神戸に帰るというニュイ君を
送りがてらドライフードを届けに来た元旦の昼下がりの埋め立
て地は、時間も風もそして犬たちの心もゆっくりと流れていた。
ニュイ君にお腹を見せて甘えている脚の不自由な女の子は、
どちらかというとおかめ顔の愛嬌のある顔つきであり、決して
美人の顔つきではない。それでもニュイ君にとっては五色台の
野生児コロとクロの面影が見えるのであろう、お腹を撫で、身
体全体に付いている雑草をとり、動かない脚を気遣っている。
時折嫉妬心を燃やすのであろう細面のシェルティ風の男の子
が甘えた仕草でニュイ君の膝元に擦り寄って行く。空咳を繰り
返し、もう危ないのではと思っていたオフホワイトの子は、食
欲も一番であり、どうにか一安心できる状態のようである。
三ヶ月齢から四ヶ月齢になっているのであろう、もう少し成
長しているのかも知れない。この二週間の内の成長ぶりは目を
見張るものがある。
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おずおずと前肢を出してきてお手をしてくれた真っ黒い毛並
みの母親は、何処かで飼われていたのだろう、お座りもお手も
できる。両耳の横に出来ている毛玉の状態から考えると、捨て
られてから少なくとも半年は経っているように思える。
ゆったりとした動きからは、野良であることなどを伺わせる
ものは何もなかった。全身の汚れと、長毛種故の毛玉が、その
苦労を物語っている。
澄んだきれいな瞳の母親である。にこにこと笑顔を絶やすこ
となく犬たちに接しているニュイ君の顔が輝いている。同じ場
所で、例え短くても同じ時間を共有している安らぎがニュイ君
に温かい笑顔を創らせるのであろう。
全てのものが止まったかのような錯覚さえ覚えそうになるく
らい静かに刻が過ぎて行く。
風もない穏やかな空の下で五頭の犬たちが身体を伸ばして休
んでいた。
一九九四年一月一日 午後一時半
しばしの安らぎを貯木場の野良たちと共有する。
今年もまた野良たちに教えられながらの一歩が
始まった。
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