一坪ほどの雑草の生えた場所で二頭の仔犬がうたた寝をして
いた。殆ど動くことがない大型クレーンの置かれている貯木場
の片隅である。
長毛のビーグル風の仔犬が車から降りた私の横にやってきて、
ポテンとお腹を返して万歳の姿勢で見上げる。直ぐ横にオフホ
ワイトの仔犬も寄ってくる。
トランクからフードを取り出し、三箇所ほどに分けて置く。
それほどお腹は減っていないようであった。オフホワイトの仔
犬が、嘔吐様の空咳をしきりに繰り返している。その上何とな
く痩せて元気がないようにも見える。
第一世代の広域性抗生物質を喉の奥深くまで押し込み、暫く
様子を見る。資材置き場のような小さなスチール製の建物の陰
に入って行く。
反対側から回り込もうとしたとき、真っ黒の成犬がうずくまっ
ているのと出会う。前回逢ったワン君であった。逃げようとは
しない。
もう一度反対側に回り、オフホワイトの仔犬が座り込んで、
何か骨のようなものをたべているの確認し、成犬の居る場所を
覗いてみる。
座っている成犬の前肢の直ぐ前に、白黒の猫のような胴体が
見えた。何か毛皮のような物で作ったおもちゃかと思いながら
近づいてみる。
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「ウゥー」低いうなり声を発しながら成犬が横に跳ぶ。それ
でもなお近くによって、その白黒の物体を確認しようとした。
その白黒の毛皮のような物から三十センチほど離れた場所に、
同じ白黒の手のような物が落ちていた。臍から上がない、猫か
犬の子供であった。
何処からか食糧として運んできたのであろうか?成犬の眼の
中には凶暴な光はなかった。仔犬たちのために運んできた物か
も知れない。それとも死んだ自分の仔犬を守っていたのだろう
か・・・・・
同じ場所から神社に貰われていった仔犬は「ケビン」という
名前をつけて貰い、大切に飼育されている。「トイレの場所を
覚えてくれた」と言ってにこにこ顔で報告に来てくれた。
木材と鋼管そして倉庫の群、その荒涼とした埋め立て地の中
のほんの一坪ほどの雑草の生えた場所で、暖をとり休息してい
る犬たちの穏やかな風景・・・・・その穏やかに見える一枚の
絵の中に、犬たちの置かれている厳しい現実を見せられたよう
な気がする。
何処まで行っても果てることのない哀しみが小さな胸の中を
駆けめぐり、ただ黙して天を仰ぐ・・・・・
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