陽だまり



11月22日
 一坪ほどの雑草の生えた場所で二頭の仔犬がうたた寝をして
いた。殆ど動くことがない大型クレーンの置かれている貯木場
の片隅である。

 長毛のビーグル風の仔犬が車から降りた私の横にやってきて、
ポテンとお腹を返して万歳の姿勢で見上げる。直ぐ横にオフホ
ワイトの仔犬も寄ってくる。

 トランクからフードを取り出し、三箇所ほどに分けて置く。
それほどお腹は減っていないようであった。オフホワイトの仔
犬が、嘔吐様の空咳をしきりに繰り返している。その上何とな
く痩せて元気がないようにも見える。

 第一世代の広域性抗生物質を喉の奥深くまで押し込み、暫く
様子を見る。資材置き場のような小さなスチール製の建物の陰
に入って行く。

 反対側から回り込もうとしたとき、真っ黒の成犬がうずくまっ
ているのと出会う。前回逢ったワン君であった。逃げようとは
しない。

 もう一度反対側に回り、オフホワイトの仔犬が座り込んで、
何か骨のようなものをたべているの確認し、成犬の居る場所を
覗いてみる。

 座っている成犬の前肢の直ぐ前に、白黒の猫のような胴体が
見えた。何か毛皮のような物で作ったおもちゃかと思いながら
近づいてみる。
 「ウゥー」低いうなり声を発しながら成犬が横に跳ぶ。それ
でもなお近くによって、その白黒の物体を確認しようとした。

 その白黒の毛皮のような物から三十センチほど離れた場所に、
同じ白黒の手のような物が落ちていた。臍から上がない、猫か
犬の子供であった。

 何処からか食糧として運んできたのであろうか?成犬の眼の
中には凶暴な光はなかった。仔犬たちのために運んできた物か
も知れない。それとも死んだ自分の仔犬を守っていたのだろう
か・・・・・

 同じ場所から神社に貰われていった仔犬は「ケビン」という
名前をつけて貰い、大切に飼育されている。「トイレの場所を
覚えてくれた」と言ってにこにこ顔で報告に来てくれた。

 木材と鋼管そして倉庫の群、その荒涼とした埋め立て地の中
のほんの一坪ほどの雑草の生えた場所で、暖をとり休息してい
る犬たちの穏やかな風景・・・・・その穏やかに見える一枚の
絵の中に、犬たちの置かれている厳しい現実を見せられたよう
な気がする。

 何処まで行っても果てることのない哀しみが小さな胸の中を
駆けめぐり、ただ黙して天を仰ぐ・・・・・