暑い、とにかく暑い。起きてからシャワーを浴びたものの、
庭で子供達と十分も遊ばないうちに頭から汗が流れ出てくる。
時折夕立のように降る雨のせいであろうか、体中がべとべとと
してまるで梅雨のようであった。
午後四時前、気怠さに鞭を打って五色台へと向かう。外気温
計は二十九度を指していた。四時半、自然科学館へのカーブを
曲がる。ヘヤピンカーブに差し掛かり、不安が頭を横切る。
視界が開けた途端、太郎と権兵衛が車に向かって走ってきて
いる姿が飛び込んでくる。駐車場には一台の車も停まっていな
かった。
自分の食事代わりに持ってきたパンを太郎と権兵衛に先ず分
けてやる。太郎は特に菓子パンが好物のようであった。木陰に
置いているすし桶とプラスティック容器を取り出し、持参の雑
巾できれいに拭う。
犬缶とドライフードを混ぜ合わせた食餌を盛りつけ、太郎た
ちが食べている間に、トイレ裏にドライフードと食パンの角切
りを非常食として置く。
食べ終わった太郎と権兵衛に、今度は缶詰を開ける。久方ぶ
りにゆっくりと話ができる時間がとれたせいもあるのだろう、
太郎も権兵衛もよく食べてくれる。
木陰に移り食後の休息をとる二頭をしゃがみ込んで見守る。
人なつっこい華の姿が見えない。太郎たちの様子から、何か緊
急事態が起こったとも考えられない。また今度逢えるのであろ
う。
太郎が芝生広場の方へ移動を始め、権兵衛も後をついて行く。
しゃがみ込んだままの姿勢で太郎と権兵衛を呼んでみる。太郎
が立ち止まり、権兵衛も引き返してくる。
凡そ五メートルばかり離れた木の下の涼しそうなところにゆっ
たりとした犬座位で太郎が陣取り、そのまた五メートルぐらい
離れたところに権兵衛が座る。二頭ともじっとこちらを見てい
る。
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窪地では名無し一頭だけが留守番をしていた。五、六カ所に
分けて食餌を置き、コロと茶の帰りを待つ。名無しの栄養状態
はかなりいいように見える。それにしても暑い。だらだらと汗
が流れるのが解る。岬のクロにとりあえず食餌を届けることに
して窪地を後にする。
海からのかなり強い風が吹き上げてきている岬は涼しくて心
地よかった。車から降りるともうクロが足下にきていた。缶詰
を開け石のテーブルに置く。いつものようにゆっくりと食餌を
するクロを見つめながら汗を乾かす。
再び峠下の窪地に。コロも茶も帰ってきていた。お腹を上に
向けて甘えるコロを撫でながら暫く遊ぶ。頭上には太郎たちの
住む山頂がそびえ立ち、紫色の花の絨毯で飾られていた斜面は
濃い緑色の雑草に覆われていた。風が止まり夕闇が迫っている。
気温二十六度、夏が帰ってきたのだろうか。
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