その五色台の一角に何時の頃からか、数匹の犬の群れが住み
着き始めた。時には5,6頭の集団を形成し、その構成も時と
共に顔ぶれが目まぐるしく入れ替わっていた。
時折ベンジャミンたちを連れて散歩に訪れていた私の前に、
4頭の群れが何処からともなく現れ、尾を振って寄ってきてく
れた。次に同じ所を訪ねたときも、その群れは同じように尾を
振って出迎えてくれた。数回の出逢いを経て、定期的に彼らに
食餌を運ぶことが私の大切な仕事の一つとなっていた。
4頭のワン君たちに名前を付ける。父親に「太郎」、母親に
は「ミルク」、その子供2頭に「胡桃」と「権兵衛」。
母親のミルクは臨月間近であった。生まれてくる子供達のた
め栄養をつけさせ安全に子育てが出来るようにとの思いで食餌
を運び、産室を内緒で作り、その日を心配と期待で心待ちにし
ていた。もう生まれたであろうと思われるその日前後からミル
クはぷっつりと姿を見せなくなった。何日も何夜も捜し続けて
みた。手がかりも足跡も落ちてはいなかった。ミルクは臨月の
おなかを抱えたまま、・・・消えてしまった。食餌のとき、体
をくねらせて喜びを表現してくれていた心根の優しいミルクの
姿は、半年を経た今も、心の中だけにしか存在していないので
ある。
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今ミルクの子の胡桃が5匹のまるまると太った仔犬を育てて
いる。一時行方不明だった権兵衛も帰ってきた。父親の太郎は
優しい目付きの中に、家族を守る警戒心を、胡桃は母親と同じ
ように体をくねらせて喜びを表現し、権兵衛は少し離れて尾を
振っている。
食餌を運ぶ私の車の音を聞き分けているのであろう、どんな
時間に訪れても、風を切って走り寄ってきてくれる。お互いに
言葉を交わす事はないものの、心は通じているようである。突
然仔犬をくわえて産室から出てきて見せてくれた胡桃の、子供
から母親に変わった表情のまぶしさに、しばらくは動く事も出
来なかったし、その子供たちを見守る太郎の表情に、この上も
ない優しさを見せてもらった。
この子たちのことを、どう呼ぶべきなのであろうか! 決し
て野良犬たちではない。住居も定まり、人に危害を加える事も
なく、餌を無心する事もない。大自然の中で家族と共に、悠々
の生活を営んでいる。ただ固定した飼い主と呼ぶものがいない
だけのことである。
太郎 体長 1メートル 体高 50センチ 茶色 短毛
胡桃 体長 70センチ 体高 35センチ 茶色 短毛
権兵衛 体長 70センチ 体高 35センチ 茶色 短毛
クロ 体長 80センチ 体高 50センチ 白黒 長毛
コロ 体長 110センチ 体高 60センチ 茶色 短毛
胡桃の子供達 5頭 生後 32日 茶色 4頭 白黒 1頭
「五色台の野生児」そう呼ぶ事にした
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