コロちゃん頑張る



10月4日 午後五時三十分 曇り
 前日から用意していた薬品類・注射筒などをトランクに積み、
妻が用意してくれていた生牛肉をボックスに入れて窪地のコロ
のところに向かう。

 途中岬のクロに給餌。生後三ヶ月ぐらいの真っ黒の雌犬が、
捨てられたのであろう食餌をねだる。人懐っこい仔犬君である、
でもどうすることもできない。クロと仲良く暮らしてくれるこ
とを願う。

 窪地では茶とコロが待っていた。コロは後躯に麻痺症状がみ
られる。それでも尻尾を振って側に寄ってくる。牛肉のパッケー
ジを開ける。食欲がないはずであるのに、しっかりと食べる。
隣の茶は食欲がかなり減退しているようであった。

 カメラ用の三脚を立て、リンゲルの皮下点滴を始める。相変
わらず蚊が多い。ぐずるコロをなだめながら何とか三百tの輸
液を皮下に落とす。挙動がだるそうである。心音、呼吸ともに
それほどの乱れはない。

 乾いた目脂が右目の周りにこびりついている。痒そうにはし
ない。

 「ジステンパー・・・・・!」

 不安が大きな塊となって胸の中に広がってくる。急激な削痩、
眼脂、後躯の麻痺、食欲の廃絶、鼻の乾燥・・・・・症状はそ
ろっている。茶の左目にも目脂がこびりついている・・・・・。

 崖の下から仔犬の啼き声が聞こえてくる。茶の子供たちであ
ろう! 暗闇の中で座ったままのコロが顔を見つめている。
 午後十時半、ペニシリン製剤のアンピシリンと強心剤ジゴシ
ン、それにロースハム、スライスチーズなどを持って再び窪地
のコロのところへ。

 漆黒の中をライトを照らしてコロたちを探す。闇に向かい

 「コローッ、コローッ、コーローー」

 何度も何度も呼んでみる。サーチライトの中に四つの目が光
る。三十メートルほど先の路側帯のところに茶とコロが立って
いた。走ることができない自分をせき立てコロの側に・・・・。

 後躯麻痺のためか、立っているのがやっとというコロを腕に
抱き窪地の車のところに連れてくる。スライスチーズのパッケー
ジが旨くとれない。もどかしさと、こんな暗闇の中、しかも不
自由な体をおして崖を登ってきてくれたコロへの切ない感謝の
気持ちとでもみくちゃにされながら、二種類の錠剤をチーズに
くるみ食べさせる。何の懸念もなく薬入りのチーズを飲み込ん
でくれる。

 途中買ってきた牛丼の肉もしっかりと食べ、ハムも二パッケー
ジ食べてくれる。独歩で崖下に帰ろうとするコロを抱き上げ、
元の路側帯のところまで連れて行く。車に帰り、もう一度路側
帯のところまできたときには、コロの姿は既になかった。

 「しろちゃん! コロを呼んだらダメだよ、まだダメだよ。
  守ってくれよーっ!」

 中空に向かい亡くなったシロに向かって叫びながら帰路に就
く。

 クロと新しく仲間入りしたチビクロも元気に夜食を食べてく
れた。