十月五日



曇り空
 午後三時、局を早退してコロのいる窪地に到着。コロと茶が
草の中から顔を出して出迎えてくれる。コロの病状に変化はな
いようであった。

 持参の生牛肉、鳥肉、フランクフルトソーセージ、チーズな
どをしっかり食べてくれる。チーズにくるんだクロラムフェニ
コールとジゴシンも難なく飲み込んでくれる。

 三脚を立て点滴の準備を始める。コロはじっと寝そべったま
ま待っている。相変わらずものすごい数の薮蚊が襲ってくる。

 昨夜刺されたところが二十カ所ほど瘡蓋になっている。おと
なしく一時間の皮下点滴を受けてくれる。途中で手を舐めたり、
お腹を空に向けて甘える。

 胸からお腹にかけてゆっくりと撫でてやると、うとうとと眠
り始める。心拍八十四〜八十八、呼吸音正常、鼻粘膜乾燥、口
腔粘膜やや血色悪し。

 点滴終了後、テラマイシン眼軟膏を両目に点眼、明日には目
脂が取れていることを願う。

 犬座位のまま見送るコロを後に山上の太郎たちのところに急
ぐ。一台の車も停まっていない駐車場は、風もなく鳥の声もな
かった。まだ固いつぼみの山百合と、ピンク色のコスモスの花
が音もなく出迎えてくれただけであった。

 潅木の下のすし桶の食餌も、トイレの裏のパンとドライフー
ドも、きれいになくなっていた。新しい食餌を所定の場所に置
き車に戻ろうとしたとき、芝生広場の方から二頭の犬が現れた。
「太郎! 権兵衛!」きょとんとした顔で座っている。
 太郎でも権兵衛でもなかった。山裾の窪地にいるコロと、体
型も顔立ちも、吃驚するほどそっくりの見知らぬ犬であった。
缶詰を開け、むさぼりながら食べているワン君を暫く眺める。
いろいろな想いがこみ上げてくる・・・・・。

             *****            

 岬のクロとチビクロは元気そのものであった。チーズを食べ、
缶詰の夕食を平らげて満足そうな顔をしている。健康診断のた
め心音を聴いている聴診器にじゃれついて遊ぶチビクロを撫で
再び窪地へと車を走らせる。


 茶が予備に置いていたフランクフルトを食べていた。コロは
いなかった。昨夜コロたちが出てきてくれた崖下の蜜柑畑に下
りてみる。やはりコロは出てこない。

 二十メートル近く離れた蜜柑の木の下に、六、七週齢の仔犬
が三頭、いや四頭に、下の方から五頭目が・・・・・合計六頭
の仔犬を見つける。恐らく茶とコロの子供であろう。うれしさ
と哀しさでごっちゃになった胸を押さえながら周辺にドライフー
ドを置く。

 岬の崖下のちびちゃんが捨てられていた雑草の間に一本だけ
生えていた柿の木の赤い二個の実が、時折吹き上げてくる海か
らの風の中で揺れている。明日は雨が降るのであろう、なま暖
かい風が通りすぎてゆき、哀しみが細波のように押し寄せてく
る・・・・・海の色が深い・・・・・。