午後三時、局を早退してコロのいる窪地に到着。コロと茶が
草の中から顔を出して出迎えてくれる。コロの病状に変化はな
いようであった。
持参の生牛肉、鳥肉、フランクフルトソーセージ、チーズな
どをしっかり食べてくれる。チーズにくるんだクロラムフェニ
コールとジゴシンも難なく飲み込んでくれる。
三脚を立て点滴の準備を始める。コロはじっと寝そべったま
ま待っている。相変わらずものすごい数の薮蚊が襲ってくる。
昨夜刺されたところが二十カ所ほど瘡蓋になっている。おと
なしく一時間の皮下点滴を受けてくれる。途中で手を舐めたり、
お腹を空に向けて甘える。
胸からお腹にかけてゆっくりと撫でてやると、うとうとと眠
り始める。心拍八十四〜八十八、呼吸音正常、鼻粘膜乾燥、口
腔粘膜やや血色悪し。
点滴終了後、テラマイシン眼軟膏を両目に点眼、明日には目
脂が取れていることを願う。
犬座位のまま見送るコロを後に山上の太郎たちのところに急
ぐ。一台の車も停まっていない駐車場は、風もなく鳥の声もな
かった。まだ固いつぼみの山百合と、ピンク色のコスモスの花
が音もなく出迎えてくれただけであった。
潅木の下のすし桶の食餌も、トイレの裏のパンとドライフー
ドも、きれいになくなっていた。新しい食餌を所定の場所に置
き車に戻ろうとしたとき、芝生広場の方から二頭の犬が現れた。
「太郎! 権兵衛!」きょとんとした顔で座っている。
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太郎でも権兵衛でもなかった。山裾の窪地にいるコロと、体
型も顔立ちも、吃驚するほどそっくりの見知らぬ犬であった。
缶詰を開け、むさぼりながら食べているワン君を暫く眺める。
いろいろな想いがこみ上げてくる・・・・・。
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岬のクロとチビクロは元気そのものであった。チーズを食べ、
缶詰の夕食を平らげて満足そうな顔をしている。健康診断のた
め心音を聴いている聴診器にじゃれついて遊ぶチビクロを撫で
再び窪地へと車を走らせる。
茶が予備に置いていたフランクフルトを食べていた。コロは
いなかった。昨夜コロたちが出てきてくれた崖下の蜜柑畑に下
りてみる。やはりコロは出てこない。
二十メートル近く離れた蜜柑の木の下に、六、七週齢の仔犬
が三頭、いや四頭に、下の方から五頭目が・・・・・合計六頭
の仔犬を見つける。恐らく茶とコロの子供であろう。うれしさ
と哀しさでごっちゃになった胸を押さえながら周辺にドライフー
ドを置く。
岬の崖下のちびちゃんが捨てられていた雑草の間に一本だけ
生えていた柿の木の赤い二個の実が、時折吹き上げてくる海か
らの風の中で揺れている。明日は雨が降るのであろう、なま暖
かい風が通りすぎてゆき、哀しみが細波のように押し寄せてく
る・・・・・海の色が深い・・・・・。
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