午後三時、窪地のコロの住居に着く。あちこちに塵が散乱し
大型トラックが停まっている。コロの姿も茶の姿もない。路側
帯を歩きながら口笛と声でコロを呼ぶ。出てこない!
顔から血の気が引いて行くのが解る。蜜柑畑に下りて探して
みても何も出てこない。道路に上がりとぼとぼと窪地に帰る。
ふらつく後脚で体を支えたコロが尻尾を振っていた。窪地の
下の茂みのどこかから出てきたのであろう、私を追いかけてく
るだけの力がなかったようだ。
両腕で抱き上げ車のところに連れて行く。先ず生の牛肉、そ
してチーズとクロラムフェニコールとジゴシンの入った肉の塊。
デザートは二階堂家特製のスープ付き炊き込みご飯! 音を立
ててスープを飲んでくれる。下腹部が膨れてくるのが解る。
聴診器を通して聞こえてくる心音も大分しっかりしてきてい
る。草むらで横になっているコロの姿勢を変え点滴の準備に入
る。
しばらくはおとなしく点滴を受けてくれるものの、二百tを
越えた当たりからごそごそと動き始め、とうとうお腹を上にし
て万歳の姿勢をとる。
首筋に点滴針を入れているのに、危なくてしょうがない!
二度ほど針が抜ける。三度目に針を刺すと、はっきりと怒りの
声を上げ、咬みつきにくる。
「ウギャン、ハウッ」
針を持った手を咬みにはくるものの、歯が当たるとそれ以上
口を閉じない。人差し指をくわえてガムを噛むようにガジガジ
と奥歯で咬む。甘えた、しかしちょっとだけ鼻に皺を寄せた威
嚇の顔である。少しは病状がよくなったのであろうか、よく動
く。
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余り動かれてもと思い、地べたに座り込み頭を撫で始める。
目を閉じてうっとりとした表情のコロが、私の組んだ足の上に
顎を乗せてきて眠り始める。呼吸も静かに正確にしている。目
脂も出ていない。鼻水が少しと目に力がないだけである。
きっかり一時間、点滴が終わったコロは一段奥の草むらで眠
りに就く。薬のショックに備えて暫く散歩をしながらコロの様
子を見る。
坂の上まで登り草むらの中のコロを呼んでみる。頭だけを上
げてこちらを見つめる。風もないのに結構寒い。明け方風邪を
ひいたのであろう熱のため起きあがったときのあの何ともいえ
ない不愉快な気怠さが襲いかかってくる。
車に戻り岬のクロに給餌。昨日のチビクロの姿は見えなかっ
た。有料道路の閉まる時間であった。山上の太郎たちへの給餌
を諦め、もう一度コロのいる窪地に。同じ場所で同じ姿勢で休
んでいるコロに「頑張れ、またくる」そう言い残して海沿いの
道を帰路に就く。陽は既に西に沈んでいた。
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