注射が痛い!



10月6日 曇り 気温下がる
 午後三時、窪地のコロの住居に着く。あちこちに塵が散乱し
大型トラックが停まっている。コロの姿も茶の姿もない。路側
帯を歩きながら口笛と声でコロを呼ぶ。出てこない! 

 顔から血の気が引いて行くのが解る。蜜柑畑に下りて探して
みても何も出てこない。道路に上がりとぼとぼと窪地に帰る。


 ふらつく後脚で体を支えたコロが尻尾を振っていた。窪地の
下の茂みのどこかから出てきたのであろう、私を追いかけてく
るだけの力がなかったようだ。

 両腕で抱き上げ車のところに連れて行く。先ず生の牛肉、そ
してチーズとクロラムフェニコールとジゴシンの入った肉の塊。
デザートは二階堂家特製のスープ付き炊き込みご飯! 音を立
ててスープを飲んでくれる。下腹部が膨れてくるのが解る。

 聴診器を通して聞こえてくる心音も大分しっかりしてきてい
る。草むらで横になっているコロの姿勢を変え点滴の準備に入
る。

 しばらくはおとなしく点滴を受けてくれるものの、二百tを
越えた当たりからごそごそと動き始め、とうとうお腹を上にし
て万歳の姿勢をとる。


 首筋に点滴針を入れているのに、危なくてしょうがない! 
二度ほど針が抜ける。三度目に針を刺すと、はっきりと怒りの
声を上げ、咬みつきにくる。

 「ウギャン、ハウッ」

 針を持った手を咬みにはくるものの、歯が当たるとそれ以上
口を閉じない。人差し指をくわえてガムを噛むようにガジガジ
と奥歯で咬む。甘えた、しかしちょっとだけ鼻に皺を寄せた威
嚇の顔である。少しは病状がよくなったのであろうか、よく動
く。


ハゥ− 終わった!
 余り動かれてもと思い、地べたに座り込み頭を撫で始める。
目を閉じてうっとりとした表情のコロが、私の組んだ足の上に
顎を乗せてきて眠り始める。呼吸も静かに正確にしている。目
脂も出ていない。鼻水が少しと目に力がないだけである。

 きっかり一時間、点滴が終わったコロは一段奥の草むらで眠
りに就く。薬のショックに備えて暫く散歩をしながらコロの様
子を見る。

 坂の上まで登り草むらの中のコロを呼んでみる。頭だけを上
げてこちらを見つめる。風もないのに結構寒い。明け方風邪を
ひいたのであろう熱のため起きあがったときのあの何ともいえ
ない不愉快な気怠さが襲いかかってくる。

 車に戻り岬のクロに給餌。昨日のチビクロの姿は見えなかっ
た。有料道路の閉まる時間であった。山上の太郎たちへの給餌
を諦め、もう一度コロのいる窪地に。同じ場所で同じ姿勢で休
んでいるコロに「頑張れ、またくる」そう言い残して海沿いの
道を帰路に就く。陽は既に西に沈んでいた。