冬 の 星



12月15日
 海岸公園からさらに五百メートルほど東に進んだ所、そこは
二万平方メートルほどの広さの草地であった。春から初夏にか
けてはカラスノエンドウを始め実にいろいろな雑草が生い茂り、
その雑草をかき分けながら四葉のクロバーを探したものであっ
た。

 多いときには一時間で三十枚以上を探し出すこともできた。
夏の夕暮れ時には、蚊に刺されながらベンジャミンと夕日を眺
めたりもした。絶好の散歩コースであり、ベンジャミンの運動
場でもあったその広場には「高松テルサ」という立派なイベン
トホールを備えた斬新なデザインのビルが建ち、夜遅くまで車
が出入りしている。

 六甲山に霧氷の華が咲き、札幌が真冬日の雪時雨に見舞われ
たというニュースのあと、完全防寒の装備でベンジャミンと蘭
の散歩に出かける。

 先日来北斗七星が探し出せず、冷え込みが厳しい今夜こそは
何とか見つけてみようと、川沿いの遊歩道で先ず自転車を止め
ベンジャミンを放す。

 いつものオリオンが雲の中に隠れてみることができない。首
をねじ曲げられるだけねじ曲げて上空の星の群を探す。街の灯
火が空に反射して輝きが鈍い。意地も手伝ってくれたのであろ
う、北斗七星も北極星もちゃんと探し出すことができる。

 深々と冷え込んでいる冬の空も、見る角度によっては地上の
灯火が邪魔をして星たちの澄んだきらめきを眺めることができ
ないようである。
 寒さはベンジャミンの大好物! 走る早さがいつもと違う。
海岸公園を通りすぎ、五百メートルはあるであろう「屋島大橋」
を渡って草地であった場所のお向かいにあるサッカーコートに
到着。

 二面のサッカーコートを借り切ってのベンジャミンと蘭の夜
の運動会が始まる。あの短い脚で良くもあれだけ身軽に走るこ
とができるものである。追い啼きをしながらベンジャミンのあ
とを蘭が追いかける。

 濃紺の夜空に白い雲が湧き、輝いている星たちを隠し始める。
空が低く感じられる。オリオンも雲に隠れた。頬に当たる風は
冷たく、川面では数百羽の水鳥が早い眠りについていた。

 白い息を吐きながらベンジャミンと蘭が足下に帰ってくる。

 「ベン! あそこに友達の太郎や胡桃たちがいるよ!」

 きちんとお座りをしたベンジャミンが南の星空を見上げ、何
も解っていないのであろう蘭ちゃんがべったりとベンジャミン
にくっついて、曲がらない右脚を伸ばしたまま座っている。

 風が通り抜けた・・・・・