作品に寄せられた賛辞

 太平洋戦争をテーマに、詳細に調べられた上で描かれた、スケールの大きなフィクションです。細部にまで至る描写力の冴えが素晴らしく、戦地の臨場感、緊迫感が、読む者にしんしんと伝わってきます。文章もしっかりしていて、地名なども細かく記載され、読み手の脳裏に、ストーリーの絵を想像しやすい出来映えとなっています。過酷な状況の中で苦難し、苦渋の選択を迫られながらも、勇気をもって困難に立ち向かっていく主人公の姿が清々しく、戦争の記憶が薄れかけてきている現代に、改めて“日本”というアイデンティティーの所在を考えさせられる作品です。「雨霰のように降り注ぐ砲弾の下、兵隊は半壊した壕にしがみつき、ただ黙って耐えるしかない」という世界、「岸本中尉と見られる遺体」の発見と埋葬場面など、想像を絶する世界です。リアリティーに溢れた、本格的戦記小説といえましょう。

--- 新風舎 ---

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 たいへん読みごたえのある作品で、一読して書き慣れている印象を受けました。
 第二次大戦末期の南方戦線に材を取ったものは小説や映画でもいくつかありますが、この本は既存の作品が取り上げてこなかったもの(イリエワニ)にスポットを当てて重厚な人間ドラマに仕上げています。
 私はあとがきを読むまで、これは実際の事件を元に書かれたものとばかり思っていました。そのくらい状況描写や心の動きにリアリティがありました。 戦争の悲惨さというひとつの事実(ノンフィクション)を浮き彫りにするための創作(フィクション)として、これは秀作と思います。

--- 本の森 ---

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 ビルマ沖の、ある島で、敗走する日本兵が鰐の犠牲になった。この事実を知る日本人は少ない。忘れてはいけない、日本人の歴史が、ここにもある。
 戦場の緊張感、戦友の死などの悲しさ、敗走時の兵士たちの心理、鰐に襲撃されるシーン・・・。まるで映像を観ているかのように、心に深く刻まれていく。読者を引き付けるすべを知る作者は、敗走する部隊を救出する部隊を登場させ、スリリングな物語とすることに成功している。食いちぎられた将校の遺体、鰐の影。このシーンは不気味であり、敵軍だけが脅威ではない、戦場の緊張感、恐怖感を効果的に伝える。ここまでのシーンで、読者の感情移入は頂点を極める。そして、以降に続くシーンで堰を切る。
 渡河を何度も試みようとする場面は悲しい。いよいよ決行のとき、敵の銃撃ばかりでなく鰐が次々と兵士たちに襲いかかる場面では、涙が出る。戦場の現実とはどのようなものなのかがよく伝わる。
 戦争の悲惨さを改めて知り、二度とこのようなことがあってはならないという気持ちにさせられる作品である。真に出版に値する。

--- 東洋出版 ---

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 第二次大戦末のビルマ戦線を舞台に、島に孤立した部隊と救援に向かう救出部隊の苦闘ぶりを交互に描き、戦争の徒労感を醸し出している作品。とくに兵隊たちが敵兵と戦火を交えるのではなく、水に棲む鰐と闘う姿が全編にわたって活写されており、それがこの作品のオリジナリティとなっている。
 資料を元に物語の舞台を再現していく力量には確かなものを感じる。

--- 小学館 ---

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