長崎大学時代の恩師の関根浄治講師(現島根大学医
学部口腔外科教授)に、「奈良井君は一般歯科ではな
く口腔外科医になりなさい。」と勧められ、卒後は香
川医科大学口腔外科に入局いたしました。
当時の私には、歯科医師は健康増進をもって社会貢
献すべきで、人の生死の転帰に関わるべきでないとい
う信条がございました。その為、口腔癌治療には興味
を持てず、専ら顎骨骨折手術や顎骨矯正手術に興味を
もっておりました。
ある時、末期の口腔癌患者様の担当となりまして、
回診にいきますと、その患者様にはやり残したことが
あるとおっしゃいます。仔細を尋ねますと、「あなた
には立派な口腔外科医になっていただきたい。今後の
患者の為に私の身体はお役にたてるか?」と申されま
した。自分の狭い料簡を恥じるとともに人間の崇高さ
に触れて涙を流した記憶があります。
その患者様の願いは叶ったのか否かは、現在受診さ
れている患者様のご判断に委ねますが、当院で行った
手術の診療報酬の一部をNPO法人AWAがん対策募金に
寄付させていただいております。
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