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里山からの手紙


徳島県勝浦郡上勝町は、勝浦川の上流に位置し、

ブナの森を残す中山間地域。

お年寄りが元気に暮らす町として知られ、

葉っぱビジネス「いろどり」でも全国的に有名だ。

人口約2000人の里山にUターンしたフォトグラファーが、

里山に暮らす人々の「素顔の今」に出会う。



写真・文 中野晃治

●当ウェブページは徳島新聞折り込みの生活情報誌フリーペーパーさららで
2007年から1年間連載されたものに加筆と新たに写真加えたものです。
なお年齢ほかデータは当時のままです。





中尾光恵さん(58歳)



田舎は宝の山








 

 
「こーちゃん、黒大豆で作った豆腐は

何色になるか知っとるで? 

黒味がかった豆腐なんよ。

そこにスダチをかけたら、

ピンク系の赤みがさしてきて、

これって面白いなあ言うて。

客さんの目の前で搾る時に、

見よってよ、チチンプイプイて、

おまじないするんよ(笑)。

そしたら若い人が喜んでくれてなあ」。


そうニコニコと話してくれるのは、みつさん。


田舎料理の達人である。

またアピオス、アマドコロ、ヤーコンなどを栽培したり、

その忙しい合間を縫って自家製の胡麻豆腐を作ったり、豆腐を作ったり、

もろみを作ったりと昔ながらの味を追求している。

そんな、みつさんがお食事処
みつをオープンしたのが、

2001年
10月。52歳の時だった。

「上勝に来てくれたお客さんに、山でしか食べられない料理を」。

その一念で発起したという。



縄のれんをくぐると、その朝山で採ってきたばかりの食材を中心にした

田舎料理を用意していただいていた。

料理まで作っていただく予定でなかったので恐縮すると、

「食べな、分からんで〜」とニッコリ。

どれもひと手間、ふた手間かかった山の旬の料理ばかりである。






まず、むかごご飯。

むかごとは山芋のつるになる小さな実で、

お芋のような食感。

味つけのミョウガや生姜の香りがたまらない。

スルメでとった出汁に麦飯も入っていて、

ほっこり笑顔になる里山ならではのおふくろの味わいだ。



次いでイワタバコ、コゴミ、ユキノシタ、

カンゾウの花、ウド、コーンフリなど

聞きなれない田舎ならではのバラエティに富んだ山菜天麩羅。

抹茶塩でいただく、野趣な味わいだ。

そして甘みがあるカンゾウの花のお浸し、

コリコリとした食感で少しピリ辛のイタドリの炒め物、

里芋の茎を醤油で味付けしたズキガセは酸味が心地よい。



きゅうりの酢の物は、青じそにみょうが、

三杯酢につけたウルイの花をあしらい、

舌の先で薬味が爽やかな多重奏のメロディを奏でているかのよう。

ナスやインゲン、かぼちゃなどを使った夏野菜のピリ辛和えは、

ビール好きに溜まらない。

刺激的なパンチのある辛さで汗が吹き出そうだ。


これぞ山懐のフルコース。

まさに市街地の方が求めている味である。

嬉しくて何度も何度もそう伝えると、

返ってきたのが冒頭のチチンプイプイ

(黒大豆で作った豆腐に、スダチをかけると

ピンク系の赤みがさしてくるという)

話であった。





写真は桜茶にするために漬けた瓶やかりん酒、またたび酒、りんご酒など。




「ユキノシタは天麩羅が有名やけど、

別の食べ方を最近発見したんよ。

茹でて水につけて、搾って、酢みそをかけたら

シャキシャキとして美味しかったよ」。

「秋には、さつま芋の茎を使った油炒めもするんよ。

戦時中の食べ物でな
」。


田舎料理が取り持つ市街地と農村の交流。

みつさんの手にかかると山の花も草も、チチンプイプイ、

山の知恵が息づく田舎料理に早変わりするから手品を見るようだ。

お店に並ぶ薬草の図鑑や事典、

栽培の本はお客さんに貸し出しもしており、

またみつさん自身にレシピを請う人も。


「料理しかけたら面白うてな。山に行くんも面白い。

飽きが来んというか。山草を摘んでは、これって何か使えんかなあ(笑)」。

その試食をお願いしているのが娘さん。

でも「何食べさせられるか、分からん(笑)」と

いつも逃げられてしまうのだとか!


お店にはガマズミ、グユミ、タンポポなどの果実酒や、

梅、すもも、いちごなどのジャム瓶も並ぶ。

梅ジャムは冷奴のトッピングとして使うそう。

春・夏・秋・冬。


みつでいると、田舎の四季がご馳走なのだと気づく。


「あとな、ドクダミは化粧水になる作り方が
」と

目を輝かせる、みつさん。

山野草の話はまったく尽きない。


お店から望む新緑、耳に響く谷川の澄んだ流れ。

脈々と守り受け継がれてきた自然がここにある。


「田舎は宝の山やな。季節ごとに食材がいっぱいあるけんな。

楽しいというか、忙しいというか、

いっぱい食べれるもんが出てくるけん」。

そして茶目っ気たっぷりに言うのだ。


「除草剤やせられんでよ(笑)。

田舎はミネラルの山やわ!」と。

 












田舎は宝の山

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