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里山からの手紙


徳島県勝浦郡上勝町は、勝浦川の上流に位置し、

ブナの森を残す中山間地域。

お年寄りが元気に暮らす町として知られ、

葉っぱビジネス「いろどり」でも全国的に有名だ。

人口約2000人の里山にUターンしたフォトグラファーが、

里山に暮らす人々の「素顔の今」に出会う。



写真・文 中野晃治

●当ウェブページは徳島新聞折り込みの生活情報誌フリーペーパーさららで
2007年から1年間連載されたものに加筆と新たに写真加えたものです。
なお年齢ほかデータは当時のままです。





関康昭さん(47歳) 祥子さん(47歳)



100年を守る





                                          

  

 
山林を縫うように、急斜面をひたすら車で登ると、

突然、視界がひらいた。


山々が弧を描いて重なる標高約800m。


ここが関さんの山林だ。


毎年春になると、地元の小学1・2年生は

この天空の林にやって来る。

「森の名つけ会」と呼ばれ、森林学習が開かれるのだ。

その先生役が徳島中央森林組合上勝支所長の関さんと、

奥さんの祥子さんら有志の方達だ。



樹齢約60年のヒノキの林には、

杭が1本1本立っている。

その杭に、ここを訪れた小学1年生の

子供たちの名前と夢が

それぞれ記されている。


「うちゅうにいってうちゅうじんにあいたい」。

私の子供の名前と、夢もそこにあった。



「上勝におって、山に触れたことないんでは

寂しい話やけん、触れて欲しいんよなあ」と

関さんは泥のついた手を拭う。


「大人になった時
あの思い出の山に行ってみたい

片隅に思い出してくれたら。くじけそうになった時、

ここへ来て、支えに感じてくれたら
と思うんよ」と

目を細めるのだ。

ここは記憶の、こころの山林だ。




関さんが山仕事の手伝いを始めたのが、小学生の頃。

「ぼくが長男やからだろうなあ・・・」。

ほんとは弟や友達と川遊びを1日中したかった。

でも大人になって、気づいた時には林が好きになっていた。



関さんお気に入りの林を歩く。

そこはヒノキや杉、松、モミ、コナラが息づく明るい林だ。

小鳥たちのさえずりが聞える。



「ここは自分がほんま安らげる場所。

手入れしてあげたら林は明るうになり、

それに答えて木も成長してくれる。

ほれを見よったら癒されるんよ! 

ぼくは
ヘンデルとグレーテルの森とここを面白うに呼んどん(笑)。

森林浴も、散策もできる、おとぎの国のような感じにしたいん。

樹齢百年、二百年のどしんとしたヒノキを残すのが夢やなあ」と

少年のような笑顔を見せる。


林には遊歩道が設けられ、

地表には陽が溢れ、

アセビなど新しい生命が育ち、

柔らかな土の感触が伝わる。


「(今の)子供たちにこの土の感触を感じて欲しいんよなあ」と

関さんは物静かに語る。



昨年、徳島市内の中学生の授業がこの林で行われた。

関さん自ら枝打ちを実演。

ハシゴで5m半程上り、そのあとは木登り器を足につけて登るや、

見る間にその姿が米粒のように小さくなった。

上空で枝打ちをしていく関さん。

固唾をのむ子供たち。

10m上の樹木から降りてくると、

拍手が山林に鳴り響いた。




山守りは一朝一夕にできるものでない。

代々受け継いで成り立つものだ。

日本は植林の山ばかりと簡単にいう人もいるが、

関さんのように山を受け継ぎ、守る人がいて、

森林は保水され、治山されていく。



「木っていっぺん手を入れたけん、ほれでええんちゃうでえなあ。

森林の表面の黒い土が1センチになるのに100年かかるって言われよんよ。

手入れせんと、その土が流れて山は崩れてしまう。

木も生き物、山も生き物」。  



関さんが山林を間伐をしていく。

木は轟音を立てて倒れると、

光が別世界のように明るく射し、

新たな植物の生命誕生を予感させた。

山を守る人は、山の産科医であり、

その山のホームドクターなのだと、

今さらながら気付かされる。


その林からさらに山の上に続く土道を上がってみた。

標高約900m。そこは森林組合で今工事中の道。

山林の木を切り、林道を開通しているのだ。

その道を関さんと歩きながら、樹木が爽やかに呼吸しているのを感じた。

なんだか、山の木が笑っているようだ。



「道ができたら、山は蘇る。木を切り、世話もできるでえ。

地元の昔の人がコツコツと植えてきた山やけんなあ。

これを生かしたいんよ!」。

がっしりとした大きな肩が、揺れた。


「山って、人が入って、明るさが出るんよな。

人のおらん山は、暗いんよ。温かみのある山を作りたい。

ちょっとでも山のこと理解してくれる人増やさな。

長い目で行かな」。

関さんはそう言うと、

少しはにかんで、

爪に土のついた手で額の汗をぬぐった。



 
                                           関さん夫妻。奥さんも間伐を行う。

100年を守る

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