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里山からの手紙


徳島県勝浦郡上勝町は、勝浦川の上流に位置し、

ブナの森を残す中山間地域。

お年寄りが元気に暮らす町として知られ、

葉っぱビジネス「いろどり」でも全国的に有名だ。

人口約2000人の里山にUターンしたフォトグラファーが、

里山に暮らす人々の「素顔の今」に出会う。



写真・文 中野晃治

●当ウェブページは徳島新聞折り込みの生活情報誌フリーペーパーさららで
2007年から1年間連載されたものに加筆と新たに写真加えたものです。
なお年齢ほかデータは当時のままです。






武市卓也さん(46歳) 



山はおたまじゃくしを奏で唄う






 

 
上勝町役場を過ぎ、渓谷の美しい道に沿って、

奥へ車を走らせると

旭地区の商店街にたどり着く。

その1軒が「パンツからナポレオンまで天下のよろず屋」

で知られる
たけいち笑店』だ



店主の卓ちゃんが家業を継いだのが約20年前。

父が他界し、高校卒業と同時に帰郷。

「若い層は車があるから買い物も仕事帰りにできるけど、

その頃
60歳だった人も80歳になり、

家にいるお年寄りも増えたな」と卓ちゃん。

当時約3400人あった町人口も現在は2000人ほどに減少した。



お店も環境に合わせて変えていく柔軟性を感じ、

現在は「走るコンビニ」として、

お店のほかに車での移動販売も行っている。

走るコンビニは、1対1のお付き合いゆえ

「なかなかいなして(帰らせて)くれへん(笑)」と

言いつつもなんだか嬉しそう。

お年寄りとの雑談を大切に笑売を続けている。





そうした根からの明るい性格は老若男女に慕われ、

恐るべきバイタリティで地域に笑顔の花を咲かせている。

地元のイベントといえば、マイクを握って司会を務め、

農村舞台ではギターを弾き語りし、

高丸山の山開きではほら貝を吹き、お祭りを盛り上げる。

また「やまびこ認定士」
としても活躍し、

「乙女こころの叫びポイント」「じゅくじょのためいきポイント」
等など

町内にあるヤッホーポイントの案内役など普及に努める。


ヤッホーを通じて自然の魅力を体験してほしいとほほ笑む。



「ヤッホーの鳴り具合や返り具合から環境を見て、

この地形面白いわ! と感じてほしい。

1秒間で返ってきたら、山との距離はどれぐらいとか、

科学の勉強にもなる。

経済的に見たら、山はどうかと言う見方もあるけど、

遊びを通じて見ると、まだまだ未知的な要素がある」と言う。


そしてこう続けるのだ。



「楽しい器と書いて、楽器と読む。

貝殻も磨けば、ほら貝という楽器になる。

ヤッホーと言えば共鳴して山も楽器にある。

そうやって考えたら地球も大きな楽器なんよな」。


                     ブナの森高丸山で(写真)

試しに店の裏山に向かって、

卓ちゃんがほら貝を吹いてくれる。

全国どこでも見かける植林の山が

この地形ならではの反響をしてブオンブオンブオンと応えてくれる。

そうか、山は楽器なんだと、感動で身震いしてくる。


「子供の頃、そんな体験をしていると

山のイメージも楽しいものになると思うんよ」とニヤリ。

町外にもマイほら貝を持つ人が増えてきた。

ほら貝は小サイズが高音、中が中音、大は低音が鳴り、

熟練してくるとひとつのほら貝でメロディも出せるという。

「夢は、ほら吹き楽団を作ることやなあ」と目を輝かせる。



上勝は街と違って娯楽施設もない。でも、


「自分がここで生きていくんやから楽しくせな(笑)。

町おこしという前に自分やが遊ぶ。 

人もいろんな経験を積んで楽しめば、

それが器になり、最後は自分が楽器(楽しい器)になる(笑)」。



最近卓ちゃんからよく聞くのが

「山並みに五線譜を引いたら、どんな音階になるだろう!?」

という壮大な構想。

地元の代表的な山の形に合わせて音符を置き、

バイオリン演奏してみる。

すると第九のメロディに似ているかもしれない。

「そしたらあの山は
ベートーベン山と、

正式名とは別に子供達が愛称で呼んでくれるかも知れんで!

あれはリスト山、これはモーツアルト山とか」と嬉々とする。



卓ちゃんの手にかかると、山も歌い、笑い始める。

その発想力にはいつも唸ってしまう。


もう私もマイほら貝が欲しくなってきている。





晴れた上勝の空。ほら貝が山の上を飛んでいるようだ。

 

 


 


山はおたまじゃくしを奏で唄う

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