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臼と杵の詩



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里山からの手紙



徳島県勝浦郡上勝町は、勝浦川の上流に位置し、

ブナの森を残す中山間地域。

お年寄りが元気に暮らす町として知られ、

葉っぱビジネス「いろどり」でも全国的に有名だ。

人口約2000人の里山にUターンしたフォトグラファーが、

里山に暮らす人々の「素顔の今」に出会う。





写真・文 中野晃治

●当ウェブページは徳島新聞折り込みの生活情報誌フリーペーパーさららで
2007年から1年間連載されたものに加筆と新たに写真加えたものです。
なお年齢ほかデータは当時のままです。








 谷口文子さん(59歳)山田喜美子さん(66歳) 

   

臼と杵の詩          


 



夜もまだ明け切らぬ冬の早朝。

標高450mほどの集落の1軒に灯る明かり。

目の前の坂道を登っていくと、

賑やかな声が聞こえてきた。


フミちゃんとキミちゃんである。



すでに出来上がった、フミちゃんお手製のこんにゃくが

袋詰めされてケースに並んでいる。

こんにゃく芋と蕎麦がらの灰汁(アク)を使った

昔ながらの製法だ。




奥ではこれからつくお餅の

杵(きね)と臼(うす)が準備され、

あんこや、きな粉、ヨモギの用意をキミちゃんがしている。


杵でつくのはどちらか尋ねたら、キミちゃんがニッコリ。

「ほら先に杵を取ったもんがつくんじゃわ〜(笑)」。


そこへ羽釜で蒸したもち米が熱い湯気を上げ、

フミちゃんの両手に抱えられ運ばれてきた。


臼にもち米を入れ、塩とヨモギを加えて、

杵で押すようにしながらこねると、

いよいよ餅つきが始まった。



今日、杵を先に取ったのはキミちゃんだ。


「えい」「さー」「こら」「さー」







おなごし(女性)二人で声掛け合い、豪快に餅つきが始まる。

80歳まではつくでよ!」とふたり。あっぱれ、である。

ふたりの息の良さは、上勝町では知らない人がいないほど。

とにかく、名コンビである。



つきあいを聞くと「
40年ぐらいやな」と朗らかにフミさん。

すかさず「ははははは」とキミちゃんが笑う。

少し間あって「
38年かな?」とフミちゃんが正確に言えば、

38年と2カ月か(笑)」とキミちゃんが茶化す。

その間も杵をつき、餅を返す手は一切止まらない。

むしろ、どんどん加速するほどだ。

たわいない話も、面白可笑しくキャッチボールするふたりのそばにいると、

こちらまで楽しくなってくる。



「(今は亡きフミちゃんのご主人が言ったことに)

朝、餅ついてあれだけ話しよって、

夜またキミちゃんと電話しよったら(笑)、


『まだ話あるんか???』って言われてな


と口元を押さえてフミちゃんがほほ笑む。



餅つきが終わると、

キミちゃんが1個分ずつ餅を取り、あんこを入れ、

それを受け取ってフミちゃんが成形していく。


その手際の良いこと。


もろぶた(木箱)に次から次へと

出来上がっていくお餅からは湯気が昇り、

朝の光が舞う。






「晃ちゃん、食べ(笑)」とキミちゃんにホイッと

出来立てのお餅を手渡され、

頬張るとやわらかくて、あたたかくて、やさしい味。

ヨモギの香りがふんわりと口に広がり、

杵つきならでのお餅の食感とあんこの甘みに癒される。


「ふるさとの味 山っ子もち」も「こんにゃく」も

上勝の
いっきゅう茶屋で販売されている。



フミちゃんは畑に種から蒔いて収穫して胡麻豆腐を作ったり、

これまた畑から作った蕎麦を手打ちしたりと

「昔ながらの料理がとにかく好きなんよ」と顔をほころばす。


キミちゃんは養鶏に、阿波晩茶に、料理屋さんの手伝い


働き者で知られる農家の肝っ玉母さん。



また地元の町おこしグループが始めた農園に、

ふたりは「やらんかよ!」と若者を応援し、ビールをおごり、

アドバイスや労働奉仕を惜しまない。



昨年、わたしたちが植えた蕎麦の実入りを

見に畑へ行けば、1台の車。

キミちゃんが畑を前に蕎麦の成長を眺めていた。


「いつも心配かけてすみませんね」といえば、

「いーや、ヨモギを取いよんよ〜(笑)」と照れくさそうに笑う。


そんな風にして

二人はいつも人知れず畑へ足を運んでは、

そっと、わたしたちを見守ってくれているのだ。







臼と杵の詩

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